心の連鎖 9
いろいろ考えて、よく眠れなかったフィリスは、重苦しい土曜日の朝を迎えた。
その日の社会見学は、波止場へ行って積荷の上げ下ろしを観察し、外国貿易について考える授業だった。
空には灰色の雲が垂れこめていたが、上空の風が吹き散らすのか、ときどきわずかに隙間ができて、弱い晩秋の太陽が顔を見せた。
じっと立っていると寒かった。 少女たちは自然に身を寄せ合い、ランフィス教頭の堅苦しい話に眠気をさそわれながら、なんとか欠伸を我慢していた。
ようやく講義が終りに近づき、東インド会社の功績と弊害について先生が語っていたとき、不意に一人の生徒がぐらっとよろめき、膝をついた。 横にいたフィリスが急いで抱き起こしたが、その生徒、ジャニス・フォーブスの顔は真っ青で、ひどく気分が悪そうだった。
もう一人の付き添いであるローゲン先生が足早に近寄ってきた。
「フォーブス、どうしたの?」
「あの、めまいが……」
「私、辻馬車を呼んできます!」
下町ッ子のリーが、さっと手を上げて提案した。 ローゲン先生はちょっとためらったが、緊急事態なので任せることにした。
「そう、じゃお願い。 私が付き添って帰るから」
「はい!」
髪をまとめた紺色のリボンをなびかせながら、リーは牧場に放された若馬のように走り去っていった。
学校へ戻って昼食を済ませた後、ほとんどの少女たちは、うきうきと私服に着替えはじめた。 キティはリーの家に泊まって、明日は二人で洋裁の本を見ながら、クリスマスパーティー用のブラウスを仮縫いするのだそうだ。
「お互いでピンを止め合うと、きれいにできるでしょう」
「帰りにレースも買ってくるつもり。 フィル、何か注文ない?」
別に、と言おうとして、フィリスは気を変えた。
「白の細番レース糸と鈎針の五号をお願い」
「わかった、五号ね」
フィリスはトリシーに手製の飾り襟を贈りたかった。 あまり器用なほうではないから、早めに編み始めたほうがいいかもしれない。
二人がコートを着てにぎやかに去って行った後、アンゴラのドレスコートに袖を通しながらアマンダがそそくさと現れた。
「支度できた?」
フィリスは答える前に自分の身なりをざっと見渡した。 チェックのワンピースに紺のオーバー。 フェルトの帽子。 どこにでもいる、ありきたりの十代。
アマンダは満足そうにうなずいた。
「まとも。 そういう格好のほうがつつましくていい印象を持たれるわ。 それに比べて私を見てよ」
うんざりした様子で、アマンダはピンクのコートと三段フリルのスカートを交互に叩いた。
「頭からっぽの金持ち娘そのもの。 バカなのはうちの親なんだけどね」
アマンダが馬鹿どころではないのを、フィリスはよく知っていた。 彼女は物理と数学に強く、小遣いの三分の一をヴェルヌーイやパスカルの理論書につぎこんでいた。
「もうじき二時よ。 そろそろ行こうか」
「そうね」
ためらいがちにフィリスは答え、赤い小さな財布がちゃんと入っているかどうか、小型の手提げの中を覗いた。 財布、ハンカチ、、それに万一公園で待ち続けても相手は来ず、時間だけが過ぎ去っていくかもしれない場合に備えて、小型の本が一冊、しっかりと見えた。
二人が並んで階段を下り、踊り場まで来たところで、急ぎ足で上がってきた教務主任のメレディス先生と鉢合わせした。
先生の顔が明るくなった。
「よかった! まだ出てなかったのね。
コートニー、お兄様が面会よ」
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