心の連鎖 14
翌日は朝から大変な騒ぎだった。 一人っ子に生まれ、大人の中で育ったアマンダは、どうやら姉さんぶりたくてたまらなかったらしく、パンにマーマレード、ミルクココアという朝食を済ませたとたんにフィリスを自分専用のクローゼットに引っ張っていった。
「私のほうが少し背が高いけど、肩幅は同じようなものだから、たぶんどれでも着られると思うわ」
「これ全部、あなた一人の?」
思わずフィリスが叫んでしまったのも無理なかった。 共にいる時間の短さを、山のようなプレゼントの量で補おうとするかのように、両親はひっきりなしにアマンダにドレスや装飾品を買い与えていた。 したがって衣装部屋は色の洪水で、ざっと見渡しただけでも五十着は豪華な服が吊り下がっていた。
「まるでドレス・ショップがまるごと移ってきたみたいね」
「毎年クリスマス前にサイズを測って、その寸法より一インチ以上太ったり痩せたりするな、なんて言うのよ。 外国で服を買ってきたとき無駄になるからですって」
うんざりした口調で、アマンダはこぼした。
「なんてクリスマス前?」
「さすがに年末にはイギリスに帰ってくるから。 後は年中出歩いてるわ」
親がいてもいないのと同じか――フィリスは胸を衝かれる思いがした。
しかし、アマンダは意外に平気だった。
「貴族の家って大抵そんなもんよ。 母親は体型が崩れるからって、赤ちゃんにお乳もやらないのよ」
そう、長男のダリルが生まれたとき、トリシーがロジャーとやりあっていたっけ。 母乳で育てないと子供の抵抗力がなくなると言って、最後には見事に説得してしまった。 トリシーが信念をしっかり持っているところが、フィリスの憧れの的だった。 それに、うまくロジャーを怒らせないようにはぐらかす腕前も。
アマンダが盛大に溜め息をついた。
「もう一人女の子を生んでくれればよかったのよ。 そうしたら二人で遊べたのに」
「私もそう思った。 男の兄弟ばっかりだから」
「でも、フィルのお兄さん渋くて素敵じゃない? 私は男らしいと思った」
フィリスは黙ってしまった。 硬い表情になった友達を見て、アマンダは急いで話題を変えた。
「ええっと、この服なんかどう? ヘイゼルブラウンの眼によく似合うわよ、ほら」
それは金褐色のワンピースだった。 胸と襟に上品なレースをちりばめ、スカートにはたっぷりギャザーが入っている。 袖は優雅に大きくふくらみ、手首に向かってすんなりと細くなっていた。
「きれいね」
フィリスはその服から目が離せなくなった。 すぐにアマンダはハンガーから服を外して、フィリスに当ててみた。
「似合う! サイズもいいみたい。 着てみて!」
アッシュグリーンのコートと手袋、黒い毛皮のついた帽子まで貸してもらって、わずか三十分でフィリスはこのままアルバート・ホールに行っても見劣りしないほど立派な装いに変身した。
鏡の前で、アマンダは仕立て屋のように腕を組んでフィリスの周囲をぐるりと回り、仕上げを確かめた。
「コートの長さ、よし。 袖丈、よし。 待って。 スカートが少し見えすぎてるから、半インチほと裾上げしましょう。 メーガン! ちょっと来て手伝って!」
器用な小間使いのおかげで、ドレス丈がぴったりと収まった頃には、九時四十分になろうとしていた。
「なんか、シンデレラの教母になった気分よ」
「じゃ私はガラスの靴をはいていかなきゃ」
「そんなの靴擦れしちゃって大変よ」
実際的なアマンダは鼻であしらい、歩きなれた靴のほうが昼間のデートには向いていると言った。
「学校のだからちょっとヤボいけど、足が痛くなるよりましよ」
「うん、わかってる」
「あーあ、私にも誰か一目ぼれしてくれないかな! 怒った父に閉じ込められた塔から、この金髪を長く垂らして彼を登らせるの」
「痛いし、ごっそり毛が抜けそう」
「それに二フィートぐらいしか長さがないし」
「手伸ばして引き上げたほうが早そうね」
「こっちが引きずり落とされる!」
「まあ普通そうなるでしょう。 髪の毛でも手でも。 あの昔話、絶対インチキだよね」
玄関で鈍いベルの音がして、ジョージが階段前を横切っていくのが見えた。
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