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あおのロンド 23


 光の筋が二段になって東の窓から差しこみ、ロー・テーブルやソファー、カウンター、飾り棚を照らしていた。
 いつもの朝の風景だった。 ここにいた月日が二年足らずだったとは思えない。 床からクッションを拾い上げ、形を整えてまたソファーに並べながら、マオは自然に微笑んでいた。
 洗面所のドアが開き、とろんとした眼のヨウちゃんが出てきた。
「おはよ」
「今日は早番? まだ六時なのに」
「仕事は八時からなんだけど、場所が東京の外れ。 地方都市より行きにくいんだ」
 しかし景色は抜群だそうで、写真集の撮影場所にはもってこいだった。
「マオちゃん、悪いね、野菜スティック作ってくれる?」
「はい」
 カウンターによろっと座りこみ、ヨウちゃんはマオが手早く切ったきゅうりと人参をクラッカーに載せて食べ始めた。
「ヨーグルトにつけるともっとおいしいんだけど、ヒロさんが嫌がるんだ。 あの匂いが嫌だって」
「じゃ、このドレッシングは? ナンプラーがちょっと入ってて爽やかなんだけど」
 マオが出してきた瓶から試しに少しかけてみて、ヨウちゃんの眼が輝いた。
「いい!」
「ね?」
「すんげーいい! はあ、このメーカーか。 メモメモ」
 携帯を取り出して入力しているヨウちゃんの背後に、足音を忍ばせてライリー丘が近寄った。
「ワッ」
「ぐえっ」
 食べていたスティックが喉につかえて、ヨウちゃんは目を白黒させた。 必死に胸を叩いているので、同情したマオが背中をさすってやった。
「大丈夫?」
「う」
 ヨウちゃんの白目が横に動き、ライリーをじっと睨んだ。 ライリーは済ました顔で天井を見上げた。
「またヨーグルトなんか食べるのがいけないのよ。 やだって言ったでしょう?」
「これヨーグルトじゃないよ! ほら、匂いかいでみ?」
 皿を突きつけられて、ライリーはたじろいだが、いやいや鼻を近づけてみて、眼を丸くした。
「ほんとだ。 におわない」
「コマーシャルじゃないっての」
 ぶつくさ言いながら、ヨウちゃんは伸びをした。
「ああ、もう半か。 支度しないと」
「今日は一緒に出かけようね」
 ライリーははしゃいでいた。 そう言えば普段よりおしゃれをしている。 ヨウちゃんもまんざらではないようで、奥へ行ってまた戻ってきたときは、買ったばかりのすっきりしたハーフコートを着用していた。
「じゃね。 出るときは戸締まりよろしくね、マオ」
「はい」
「今日は夜の十一時ぐらいまでなんだって? 迎えに行こうか」
 マオはためらった。
「でも、ヨウさんも疲れてるのに」
「今夜は大丈夫」
 緑の眼が明るく笑った。
「この仕事だけだから午前中でおしまい。 ね、ヒロさん、ヒロさんも夕方で上がりでしょう? 白金に回るの止めて、三人で飲みに行かないか?」
 ライリーは満足げにうなずいた。
「繰り出しましょう。 やっちゃいましょう!」
 ほんとに家に帰ったみたいだ――あまりの居心地のよさに、マオは不安さえ感じはじめていた。



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