縫製のしっかりしたシンプルなサロペットを手に取って、ユラは考えこんだ。
「ねえ、舞〔まい〕はこれ来年まで着れると思う?」
テディベアのまとった派手なTシャツに目をやっていた晴佳が押さえた声で注意した。
「いかにも自分の子って感じで話しちゃだめよ。 カモフラージュで私を連れてきたんでしょ?」
「そうだった」
あわてて、ユラはサロペットを晴佳の手に押しつけた。
「やっぱこれにする。 トレーナーは好きなの選んで」
晴佳は小さなズボンを持って棚を回り、すっきりした幼児用トレーナーを二着取って舞い戻ってきた。
「これなんかどう?」
「いい!」
感激家のユラは大げさに喜んだが、晴佳は表情を動かさずにレジへ行って、カードを渡した。
かわいい模様とロゴ付きのペーパーバッグを下げた晴佳は、なんとなく場違いだった。 ユラはにやつきそうになりながら財布を探って代金を返そうとした。
「ありがと。 ついでにヘザーかコーチでも見ていく?」
「ううん、面倒。 あ、その支払いは私が持つ」
「え? だけど……」
「舞ちゃんの誕生会に行けないんだ、私。 だからお詫び」
ユラの眉がひそめられた。
「来らんないのは仕方ないけど、そんなに引っ張り回されてるの?」
「そう」
晴佳は表情のない声で答えた。
「親戚、長老、友達、みんなに会わされてる。 式の前に向こうの関係者全部と顔見知りになっちゃいそう」
「どういうことなんだろ、それ」
ユラは首をかしげた。
「石垣さんが晴佳に夢中なのはわかってるよ。 でもデートって普通そういうもんじゃないでしょ」
「根回しかな」
と晴佳はつぶやき、話題を変えた。
「レストランで見つけたピアノ弾きの人、堀田って言ったっけ?」
「そう、堀田くん」
ユラはとたんに言葉数が多くなった。
「こないだね、編曲頼んだら凄いの作ってきちゃってね。 あの子才能あるわ。 だから今度は曲も頼もうかと……」
「母なる大地ね」
「え?」
晴佳の頬を苦い笑いがかすめた。
「他人の才能を育てようとするエネルギーがまたむくむくと盛り上がってきたみたいね」
ユラは足元の舗道に目を落とし、それから反抗的になった。
「だから? 埋もれた天才を発掘して何悪い?」
「悪くはないわよ。 でも相手が、ありがとう、お世話になりましたって羽ばたいていっちゃったら、あなたに何が残る?」
辛辣な言葉に、ユラは口をきゅっと結んだ。
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