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あおのロンド 26


「好きになったら負け。 好きにならせるの。 どう? 一回そういう恋をしてみない?」
「無理だ、私には」
 ちょっと不機嫌になって、ユラは晴佳から紙袋を受け取った。
「そんな計算ずくの恋なんてしないもの」
 今度は晴佳が鼻白む番だった。 珍しく怒った表情になって、晴佳は訊き返した。
「私が計算で石垣さんと婚約したって思うの?」
「ううん」
 意外にも、ユラはきっぱりと否定した。
「計算とか何とか以前の問題でしょ。 はっきり言うけど、政略結婚にしか見えない」
 突然晴佳は足を止めた。 そして、早口で言った。
「余計なお世話よ」
 回れ右して雑踏に消えていく友達を、ユラはどこか心配そうに見送った。


 その夜、十一時三十八分、電話が低く鳴った。 パジャマに着替えようとしていたマオは、転げそうな勢いでベッドに飛びつき、枕の上に置いてあった携帯を手に取った。
 入っていたのは、メールの応答だった。
『別れたいなら、イエスとだけ返事をくれ
        井』

 別れる――最初の字を見ただけで、マオはベッドに座りこんでしまった。 初めて喧嘩して、それが別れ話になるなんて!
「そりゃ、もう帰らないとか書いたよ。 悔しかったからだよ。 自分がひどいことするからじゃない……」
 このままだと涙の洪水になりそうなので、マオは電話を掴んだまま部屋から飛び出した。 幸いリビングではまだヨウちゃんとライリーが並んで座って、『桃○郎電鉄』ゲームで土地を買いあさっていた。
「ここ絶対有利だって」
「そういう話なの? このゲームは」
「わかんないでやってたんだ」
「いいじゃない。 亭主の好きな赤烏帽子、じゃなくて、ヨウちゃんの愛するなつかしの電鉄ゲームだもん」
 ヨウちゃんは難しい顔をした。
「普通の対戦ゲームじゃスピードについていけないと思ったからこれにしたんだけど」
「あらやだ。 わたしはまだ三十代なんだって! それに わたしはさ、どっちかというと、ほら、私鉄やなんかを運転するソフトあるじゃない。 あれ好き」
「じゃ今度買ってくる」
「わーお、ありがとう! この年だとなんか恥ずかしいのよね、ゲーム借りるのも買うのも」
「なんで」
 ヨウちゃんは納得いかなそうだった。
 マオはふらふらと二人に近づき、振り向いたヨウちゃんに携帯電話を渡した。 ヨウちゃんは画面を覗き、あわててもう一度見直した。
「なんだ、これ!」
 あまりヨウちゃんの声が大きかったので、すぐ横にくっついて座っていたライリーは、顔をしかめて耳を押さえた。
「うるさーい」
「見てよ! ねえ、これ見て!」
「なに。 エッチないたずらメール?」
 受け取ってじっと眺めた後、ライリーは真剣な表情になってマオを見上げた。
「これはそろそろ、わたしの出番だわね」


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