少し待った後、本人が出た。
「もしもし、ライリーさん?」
「はい。 ごめんね、こんな遅く」
「いいですよ」
低い声が聞こえてきた。 どこか投げやりな響きがあった。
「どうせ二十九時ぐらいまで撮影に付き合うんです。 それで何か?」
ライリーは息を整え、ずばりと切り出した。
「あなたとマオちゃん、なんで喧嘩してるの?」
一呼吸置いて、結城は答えではなく質問を返してきた。
「マオに会ったんですか?」
ライリーの声が鋭くなった。
「会ったも何も、もう四日間うちに泊まってるのよ」
今度の間は一呼吸どころではなかった。 電話を置いてどこかへ行ってしまったのではないかと、ライリーは心配になった。
「もしもし。 もしもーし?」
「そこにいるんですか? ずっと?」
「あなたね、質問ばっかりしないで答えなさいよ! こんなかわいい奥さんを家から追い出して……」
「追い出してなんかいませんよ! 僕だって一度帰っただけなんだから」
「原因は何、原因は! マオは見当つかないってよ」
「そんなはずあるか!」
結城誠也としては稀なことに、罵声が受話器から飛び出してきて、耳が敏感なライリーは急いで携帯を三十センチほど離した。
堰が切れたように、結城はわめいていた。
「抱き合ってたんですよ! 男と! 新宿の繁華街の真ん真ん中で!」
あまり声が大きいので、近くに立っていたマオにも充分聞こえた。
ヨウちゃんとライリーの四つの目に見つめられて、マオはみるみる赤くなった。
「うそ。 ありえない! 男の人と抱き合うなんて、井上さんとだって人前ではできないもの! だいたいどうして……」
必死で言い張っているうちに、はっと思い当たって、マオの眼が裂けそうに広がった。
「まさか!」
「心当たりあるの?」
「待って」
小さく叫びながら、マオは自分の携帯をヨウちゃんから引ったくり、入れてある写真を検索し始めた。
すぐに目的のものは見つかった。 マオは胸を大きく上下させながら、そのツーショットをライリーの顔の前に差しつけた。
「あんらまー」
それは、先入観のある者が見たら、まさに浮気写真だった。 黒い帽子を斜めかぶりしたすっきり顔の『男の子』とマオがほっぺたをくっつけるようにして写っている。 どちらも満面の笑顔で、指を絡めてVサインをWに作っていた。
横から覗きこんだヨウちゃんが白目をむいた。
「なんじゃ、こりゃー!」
鼻息荒く、マオは答えた。
「雅代。 佐藤雅代ちゃん。 百八十超えてるけど、れっきとした女の子!」
「あら〜」
ライリーがごく小声で囁いた。
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