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あおのロンド 31


 外は木枯らし一号が吹いていたが、結城の胸はじりじりと焼け焦げそうだった。
 二時には仙台行きに乗るために駅へ行かなければならない。 その後マオと共に彼女の故郷まで足を伸ばして、と心底から願い、駄目ならメールだけでもくれとチケット同封で頼んだのだが、返事は思いがけないものだった。
 すべて自分が悪いのだとわかっていた。 だが、確かに新宿のスタジオで仕事をしているはずの時間に、マオが通りで『男』と抱擁しているのを、仕事場のモニターで見た瞬間、結城の平常心は吹っ飛んでしまったのだった。
 許せなかった。 アリバイ作りまでして密会しているのがたまらなく腹立たしかった。 そのときほんのちょっとでも理性が働けば、人目を忍ぶ男女があんな繁華街で堂々と抱き合うわけがないとわかったはずなのだが。

「自信なかったんだな、俺」
 自嘲の言葉がふと口をついて出た。 夢見た以上に幸せな新婚生活だったのに、幸せすぎてかえって不安が忍び寄っていた。 こんな毎日が続くはずはないと、頭のどこかで思っていた。

 ゆっくりと運転席に座ったとき、電話が鳴った。 ぎくっとなった結城は、それが社長のいちなからだと知って肩を落とした。
「……もしもし」
「最初から元気がないわね」
 例によって見透かしたような高飛車な口調だった。
「マオと喧嘩したんだ。 そうでしょう」
 まるで容赦のない子供だ。 傷口に塩をなする言い方に、慣れているとはいえ結城の顔が強ばった。
「別に」
「へえ。 じゃ知ってる? あの子めずらしく泊りがけの仕事取ったんだってよ。 少なくとも明後日までは那覇にいるって」
 沖縄! 結城の目が大きく広がった。 いちなのからかい口調は続いた。
「よくあんたが許したと思ったけど、違うよね。 本格的にヤバイね。 捨てられそうなの?」
「いいかげんにしてください!」
 そう叫ぶなり、結城は器械が壊れるほどの勢いで電話を切った。

 切れた電話をしまいながら、いちなは鼻歌を口ずさんでいた。
「ザマーミロ。 気取ってる場合じゃないよ、婿さん。 けしかけてやんなきゃ、肝心なこと何もやらないんだからね」


 結城は荒っぽくカーブを切って甲州街道に入った。 どんよりとした町筋には目もくれず、彼は計画を立てていた。
――言いたい放題言いやがって。 別れたらさぞ喜ぶんだろう。 そうはさせるか!
 四時間で速攻仕事終わらせて、ショップへ寄ってチケット買って、明日には那覇空港だ。
 何がなんでも、土下座しても仲直りしてみせる。 見てろ、バカ社長!――


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