渡り廊下をまっすぐ行って、左側の二番目が、朱里〔あかり〕の部屋だった。
中に入るとすぐ、朱里は晴佳の肩を借りてベッドに横たわり、安心したように目をつぶった。
「水、ここんところに用意しとくからね」
サイドテーブルに小さめのペットボトルを置いて、晴佳は身を起こし、出ていこうとした。
すると、朱里が呼び止めた。
「ねえ」
「ん?」
「彼、どう思う?」
晴佳の顔から拭い消したように表情がなくなった。
「葉山麓郎?」
「そう」
朱里は落ち着かない様子で体を動かした。
晴佳はドアを見つめたまま、問い返した。
「どこまではっきり言っていい?」
「本音でどうぞ」
「じゃ、言うわよ。 彼は、自己中で冷たい男」
不思議なことに、それを聞くと朱里はほっとしたようにリラックスした。
「やっぱりそうなんだ」
「第一印象ではね」
「じゃ、構わないよね、少し付き合っても」
答える前に、晴佳はためらった。 彼女としては珍しいことだった。
「そこまで思いつめなくても」
「私ね」
姉を遮るように、朱里は強く続けた。
「デートしたことないんだ。 高校のときは何度か申込まれたけど、断った。 先のことばかり考えてた。
でも、だんだん先がなくなってきたらね、なんか寂しくなってきたの。 尋ねてくるお友達も少なくなったし。 学校出てから四年も経つから当然なんだけどね」
くるっと向きを変えて、晴佳は思わず大声になった。
「見つけてくるわよ、私がもっとましなのを!」
「ましな人なんて要らない」
朱里はむしろ楽しげに言った。
「口先だけでいいの。 かわいいね、とか言ってくれて、話をあわせてくれる、それだけで」
「止めてよ」
「止めない」
日頃静かな朱里には珍しく、鋭い眼が姉の視線をぐっと捕らえた。
「無料のホスト。 そう思えば腹も立たないんじゃない? 彼は私を利用しようとしてる。 でも先に私が利用して、そのまま逃げちゃうの」
それって危険すぎる、と言いかけて、晴佳は声を飲み込んだ。
| 表紙 | 目次 | 前頁 | 次頁 |