ユラは落ち着かなくて、リズムおもちゃや幼児用鉄琴、レッサーパンダのぬいぐるみなどがところ狭しと置かれたリビングをうろうろしていた。
動作が定まらない。 散らかっているおもちゃを適当に拾いあげてはバスケットに入れるのだが、すぐに舞が面白がって引っ張り出すのを止めるでもなく、またぼんやりと別のを手に取ったりしていた。
結局、半時間後には前より散らかってしまった。 ユラは胃のあたりを押さえてソファーに座りこんだ。
「うー」
「おなか、いたいの?」
真面目に心配して、舞が横に乗ってきた。 耳のあたりで切りそろえたサラサラの髪を撫でつけながら、ユラは無理に微笑んでみせた。
「ちがう。 そうだ。 舞、メロン食べようか」
「食べる!」
メロンは舞の大好物だ。 うれしくて、ゴリラのように膝を曲げ、舞はゆっさゆっさと冷蔵庫に横っ飛びしていった。 ぼんやり見ていたユラは噴き出した。
「なんだー、その走りは」
「しふぁか」
「え?」
「しふぁかっておサルさん歩き。 あのね、白と茶色でね、こんなふうに飛んで歩くの」
「おサルさん歩きか」
シファカなんて初めて聞く言葉だった。 こうやってだんだん親の知らない世界に入っていくのかな――不意にもの悲しくなった。
「はいっ」
半分に割ったメロンと皿を二枚、果物ナイフまでちゃんと盆に載せて、舞は重そうに口をすぼませて運んできた。
「お、よくできました!」
膝にかかえ上げて頬ずりしたとき、チャイムが鳴った。 ユラの動きがぴたっと止まった。 足の感覚がにわかに薄れた。 立てない。 こんなに緊張したことは、舞台の上でもなかった。
ユラがもじもじしているのを見て、舞は子供なりに解釈した。
「お疲れね。 マイが出るね」
「あ……ありがと」
思わず言ってしまって、ユラは首をすくめた。
舞はちょこまかとインターフォンをおろし、耳に当てた。
「はい?」
小さな画面に映った青年は、にっこりした。
「こんにちは。 堀田といいます。 舞ちゃんですね?」
ていねいに名前を呼ばれて、舞は戸惑った。
「はい……」
宏章はまじめくさって続けた。
「ユラさんに会いに来ました。 開けてもらえますか?」
踏み台に立ったまま、舞は母を振り返った。
「ユラさんに会いに来ましたって」
自分でも弱々しく聞こえる声で、ユラは答えた。
「どうぞ。 開けたげて」
「はいっ」
元気に台から飛び降りると、舞は玄関に下りてドアを開けた。
その目の前に、赤いリボンも華やかなプレゼントが差し出された。
「こんにちは。 これ、舞ちゃんに。 お母さんには」
ふわっと広がったサーモンピンクの花束を見て、舞はにこにこ顔になった。
「ユラさんのファンですか?」
宏章は、真剣な眼差しで舞を眺め、心から言った。
「世界で一番のファンです」
そして、背後からシャンパンの瓶を出し、舞に負けない笑顔を返した。
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