心の連鎖 6
声を張り上げて、シムズ先生が怒鳴った。
「窓から離れなさい! 自分の席について! 一分以内に戻ってこないと土曜日の外出許可を取り消しますよ!」
最後の言葉の威力は絶大だった。 女生徒たちはスカートをひるがえして、ささっと席に戻ってきた。
すれ違ったとき、リーがフィリスに素早く囁いた。
「私、出口に一番近いからさ、終業になったら飛んでって、隠したもの拾ってくる」
「あ……」
別にいいから、と言う間もなく、リーはすました表情で廊下側の席に座った。 どう考えたらいいかよくわからないまま、フィリスもキティと連れ立って、机に投げ出されていたワックスを手に取った。
もう喧嘩などきれいに忘れて、キティは大きな眼を星のように輝かせていた。
「いいな。 なんか、うっとり」
「あんただって故郷に帰ればヒースの野原に男の子の二人や三人隠してるんでしょう?」
とマイラがからかった。
「遊び友達はいるわよ。 荷車レースとか宝捜しとかやった子はね。 でも、キスさせてくれたら一シリングやる、なんていうのばっかりで、うっとりのカケラもない」
「それで? 一シリングもらったの?」
「誰が! ファースト・キスは初恋の人に取っておくの」
「キティ・マッコイ! マイラ・ボズウェル! いい加減黙らないと、口を石鹸で洗うわよ!」
先生が幼児の体罰で脅したので、教室内に小波のような笑い声が広がった。 厳しいがユーモアのあるシムズ先生は、学校で一、二を争う人気者だった。
約束どおり、授業終了の鐘が鳴るとすぐ、リーは風のように庭へ駆け出していって、三分後には息を切らせながら階段を二段飛びで上がってきた。
「あれ、フィルは?」
「古典の授業で三階。 三○五教室よ」
「うわー、疲れる!」
それでもリーは気を取り直して、黒光りする階段の真ん中を勢いよく駆け上っていった。
フィリスは優等生のアマンダと並んで、長い廊下を歩いていた。 ようやく追いついたリーは、じれったそうにその腕を掴んでぐいと引いた。
「おっと」
引き倒されそうになって、フィリスは文句を言った。
「痛いって」
「痛いじゃない! 取ってきてあげたわよ、わざわざ。 ほら!」
渡されたのは小さな白い長方形の紙だった。 現在の名刺にあたる、訪問カードだ。 細い唐草模様で囲った中に、二行の文字列が記されていた。
「スコット・ローム、ゴードン&ベナム建築設計事務所……」
「設計技師なのね、あの人」
リーが声を弾ませた。
つられて立ち止まっていたアマンダが、さりげなく尋ねた。
「会えるようにしてあげようか。 今度の土曜日に」
「ええ――!」
フィリスではなく、リーの方が思わず奇声を発した。
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