心の連鎖 23
フィリスが本を抱えて、そっとレイシー邸の庭に入ると、目ざとく気付いたアマンダが、食事室のテラスから早足でやってきて、重い本を半分持ってくれた。
「どうだった?」
「予定どおり。 本屋さんに行って、若者向きのレストランでお昼を食べて」
「ふうん」
アマンダの眼がくるくるといたずらっぽく動いた。
「もうキスした?」
「まさか……」
さっとフィリスの頬に赤みがさした。
「ちゃんと会ったのは、今日で二回目よ。 私ってそんな……」
「軽い女じゃない?」
アマンダはチッチという感じで首を横に振った。
「キスなんてほんのご挨拶代わりよ。 じゃ、腕組んで歩いた? やだ、それもしてないの?」
なんだかひどく遅れていると言われているようで、フィリスは当惑した。
居間に入って、見事な彫刻のあるテーブルにどさっと本を置くと、アマンダは振り返った。
「でもあなたのやり方、正解かもね」
「そう?」
「うん」
椅子にトンと座ると、テーブルに頬杖をついて、アマンダはしかつめらしく考え込んだ。
「まったく手を出さなかったってことは、それだけ本気なのよ、彼。 仕事も設計技師で堅いし、拾いものだったかな。 よかったね、フィリス」
あまり軽く言われるのは、気持ちのいいものではなかった。 しかし、アマンダは大事な協力者なので強くは出られず、フィリスはあいまいに微笑してうなずいた。
それでも、別れ際にスコットと交わした約束については、打ち明けなかった。 秘密を長く守りたければ、話す相手はできるだけ少ないほうがいい。 翌日の夕方を、フィリスは早くも楽しみにし始めていた。
午後の四時過ぎに学校へ戻った二人は、校内の空気がいつもと違うのに気付いた。 休みの後は次々戻ってくる少女たちの話し声でにぎやかなはずの廊下が、妙に静まり返っている。 先生たちが数人、急ぎ足で通り抜けていったが、玄関から入っていったアマンダとフィリスを横目でちらっと見ただけで、挨拶を受ける前に遠ざかってしまった。
二人の少女は顔を見合わせた。
「なんか変ね」
「話しかけられたくないって顔してたわね」
「ともかく、帰校報告はしないと」
外出から戻ったときには、舎監の先生に知らせる決まりになっている。 まだ門限までは余裕があるので、二人はのんびりと廊下を歩いていた。
すると、横の美術室のドアが不意に開き、何本かの手が伸びて、うむをいわさず引っ張りこまれた。
「えっ?」
「シッ!」
「何よ」
「静かに!」
部屋の中にいたのは、おなじみの同級生たちだった。 リー、キティ、マイラ、それに、日頃仲の良くないエイプリルまでが制服姿でたむろしていた。
「ねえねえ、重大事件よ!」
「大変なの! 学校中大騒ぎ!」
「聞いて! 私が話す!」
一度にさえずり出して収拾がつかない。
順番に友達の顔を眺めていたアマンダが、ピッと指を差して指名した。
「リー、あなた話して。 ぶっきらぼうだからわかりやすい」
「何よそれ」
不満顔ながらも、リーはまず、ずばりと言った。
「ジャニスが退学させられるって」
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