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心の連鎖 24


 退学……あのおとなしい、ほとんど目立たないジャニス・フォーブスが!
 思わずアマンダが身を乗り出して咳こんだ口調になった。
「盗みでもしたの? どうしても欲しかったハンカチとか手袋とか」
「もっとずっと重大なこと」
 エイプリルが厳かに言い出したが、とたんに回り中からシイッとやられて、仏頂面で口をつぐんだ。
 沈んだ調子で、リーが答えた。
「赤ちゃんができちゃったんだって」
 ゆっくりとアマンダが口を押さえた。 フィリスは窓辺に行き、どんよりと曇った物悲しげな戸外に視線を据えた。
 妊娠――その言葉を、少女たちばかりか大人の女性も人前で口にすることをはばかる時代だった。 結婚前に子供ができるのは大変な恥で、犯罪に等しい行為とみなされた。
 フィリスの背後では、同級生たちが声をひそめて話し合っていた。
「相手は?」
「わかんない。 ジャニスは泣くばかりで、一言も答えないらしい」
「親は?」
「もちろん呼ばれたでしょう。 ジャニスはこれからくにへ帰って相手の男性と結婚するか、こっそり生んで養子に出すのね」
 エイプリルがまくしたてた。 アマンダは口をへの字にして、たまらないように頭をごしごし掻いた。
「何かできないかな。 このまま黙って故郷へ返すんじゃ、あまりにも友達がいがないわ」
「そうよ、ジャニスは予備生からこの学校に来てるから、もう五年近くいるのよ。 成績はそこそこだけど気立てがいいし、いつも義務をきっちり果たす子で、みんなに好かれてるのに」
 何かと言い訳をつけて掃除当番や道具係をさぼろうとするエイプリルを横目で見ながら、キティが聞こえよがしに言った。 しかしエイプリルは自分があてこすられているとは思っていないらしく、平気で反対した。
「あなたたち、甘いわよ! ふしだらな子と友達なんて言われたくないわ、私!」
「ふうん」
 リーとキティが目くばせして、両側からエイプリルに詰め寄った。
「それじゃ出てって。 これから相談することを先生に告げ口されたくないから」
「そんな……密告なんてしないわよ!」
「念には念を入れて、ね」
 というわけで、エイプリルはあっさり教室を出されてしまった。

 フィリスはゆっくり振り向いて、決意を秘めた強い声で言い出した。
「もうきっと、先生方はジャニスを私たちの前に出さないわ」
「そうね、不名誉退学だもん。裏口から追い出すのよ、きっと」
「でも急な話だから、部屋に荷物はまだ残ってるはずよね」
 少女たちは顔を合わせた。
「ジャニスはホープと同室よ」
「じゃ急いで手紙を書こう。 先生が持ち出す前に、荷物に入れられるように」
「うん!」
「私は写真も入れる。 春にテニスの競技会したとき、ほら、みんなと写したやつ」
「それいいわ」
 少女たちは大急ぎで自分の部屋へ戻っていった。


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