心の連鎖 28
頭に熱がこもって、ぼうっとなっていても、フィリスの一部は冷静さを保っていて、暗い庭を素早く戻りながらできるだけ足跡をかき消していた。
だがそのせいで、逆に厄介なことが生まれた。 明るい室内に入ってみると、靴の側面が泥だらけになっていたのだ。 あわてたフィリスはできるだけドアの外にある泥除けマットにこすって落とし、気を遣いながら図書室に忍び込んだ。
念を入れて、本棚から分厚いカーライル全集を二冊抜き出し、目立つように胸に抱えて席に戻ったが、そんな用心はいらなかった。 生徒たちは出たときの四人から二人に減っていて、しかもどちらもあとから来た新顔だった。
ほっとしたフィリスは後十分ほど粘ってから図書室を出た。 初めての密会は、なんとか無事に成功したようだった。
翌晩から三日間は、夢うつつのときが続いた。 わずか十五分から二十分ほどの時間を、ふたりは目一杯使って愛を語った。
「住むならどこがいい?」
フィリスの手を両の手のひらに挟んでやさしく愛撫しながら、スコットが尋ねる。
「サリー州はいいよ。 景色がきれいだ」
「コーンウォールは? 暖かくて暮らしやすいって」
「いいね。 空気もよさそうだし」
また、三日目はこんな話になった。
「狩は好き?」
フィリスは首を横に振る。
「あんまり。 血を見るのは好きじゃないの。
でも姪のトミーは平気よ。 つぐみをパチンコで採ったりするの」
スコットは笑い出した。
「すごい子だね」
「トミーがすごいっていうより、友達がわんぱくで有名な男の子たちだから」
「男の子と遊んでるの?」
「小さいときからね。 でも女の子の友達もたくさんいるわ。 トミーは社交的なの」
「君だってたくさん友達がいるじゃないか。 いつも楽しそうに庭や廊下で話してる」
フィリスの顔がぱっと上がった。
「見てたの?」
「ああ」
手が伸びて、フィリスの髪を愛しげに撫でた。
「実は、下宿を移ったんだ。 学校の向かい側に」
「え?」
驚いたフィリスの体を、思い切ってスコットの腕が抱きしめた。 頬の横に温かい息が触れた。
「二階の窓から校舎が見える。 小さな望遠鏡を買って、君の姿を探してるんだ」
それからぱっと腕を離し、素早く柵を乗り越えて、スコットは去っていった。 弱い月明かりでも、うなじが赤く染まっているのがフィリスにはわかった。
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