表紙目次文頭前頁次頁
表紙

心の連鎖 30


 マッカラム・ギャングたちがロジャーに落とし穴を仕掛けたことは、逆にコートニー側を有利にした。 息子たちが可愛くて野放図に育ててしまったキャシーだが、さすがにこのいたずらはひど過ぎたと思ったようで、詫び状を下男に持たせてよこした。
 トミーが泣いて抗議したことも、事件の解決に役立ったらしい。 大事な父親が泥だらけになって帰ってきたのを見て、花壇に球根を植えていたトミーはすぐ、何が起きたか悟った。 そして、猛烈に怒った。 なぜかというと、実はトミーも穴掘りを手伝ったからで、まさかこんな結果が待っているとは知らず、とても楽しかったのだ。
 小さなこぶしを握りしめると、トミーは歩き出した。 やがて小走りになり、道に出るころには全速力で駈けていた。 だから、近道を通ってマッカラム家の門に来るまで、たった八分しかかからなかった。
 ぜいぜい言いながら柵に手をついたトミーを、穴に土を入れ戻していたビリーとピップが見つけた。 ビリーは真っ黒に汚れた手で汗を拭い、笑顔になって腰を伸ばした。
「よう。 父ちゃんは無事に戻ってきたか?」
 たちまちトミーの眼が三角になった。 小さな体をできるだけそびやかして門から入ると、トミーは憤怒の眼差しで悪兄弟を睨みつけた。
「クマ落としの罠だって言ったじゃないの」
 ビリーの笑いが顔中に広がった。
「この辺に熊なんかいるかよ」
「だましたなっ!」
 そう言うと同時に、トミーはボールのようにバウンドして、倍近く背丈のあるビリーに飛びかかった。 不意を打たれて、ビリーはたじたじと後退した。
「おい」
「嘘つきっ! パパはね、やさしいんだから! すっごくいい人なんだから!」
 小さいながらめまぐるしく動く手にぴしゃびしゃはたかれつつも、ビリーはなんとかその手首を捕らえて握りしめてしまった。
「ばかなまねはよせ。 俺に力で勝てるわけないだろ?」
 トミーは、ふりほどこうと全力で腕を突っ張った。
「あんたなんて嫌い! もう遊んでやんない!」
 とたんにビリーが手を離したので、反動でトミーは地面に尻餅をついてしまった。
 冷ややかな視線を投げると、ビリーは言った。
「遊んでやってるのは、こっちだ。 もう来るな。 面倒くさい」
 すると、穴の向こう側からすたすたとピップがやってきて、トミーを抱き起こした。 そして、額に垂れかかった茶色の巻き毛の下から、兄を睨み上げた。
「勝手なこと言うな。 ここは兄ちゃん一人の家じゃないぞ!」
 ビリーの眼がわすかに逸れた。 それは、いつも兄の忠実な部下だったピップの、初めての反抗だった。
 さっと手の甲で口をぬぐうと、ビリーは二人を一瞬にらんでから歩き出した。 意地悪げな声だけが後に残った。
「それなら二人で穴を埋めろ。 ちゃんとできたらまた来させてやる」
 ふらりと立ち去っていく後ろ姿を、ピップは口を尖らせて見送った。
「またさぼった。 ずるいよ兄貴は」
「ほっとこう」
 きっぱりとトミーが言った。 ピップの眼が丸くなった。
「でも……」
「お兄ちゃんが怖いの?」
 それは歴史が始まってからずっと、男をけしかけるために使われてきた言い方だった。 今度の場合も見事に成功し、ピップは顎を持ち上げて反抗的な態度になった。
「誰が!」
「言い出しっぺが埋めればいいのよ。 行こう! 柳の枝で魚取り籠編むやり方教えて!」
「うん」
 トミーに手を引かれて、ピップは思い切り悪く道に足を踏み出した。


表紙 目次前頁次頁
Copyright © jiris.All Rights Reserved