心の連鎖 31
トミーがビリーと小競り合いをした三日後、トリシーは雇い人のマーカスが御する馬車に乗って、マッカラムの家に行った。 そして母親のキャシーと二時間近く話し合い、告訴を取り下げさせる代わりに飛び地を相場の三割増しの値段で買う約束を取り付けてきた。
ボネットのリボンをほどきながら、トリシーは家でいらいらと待ちわびていた夫に報告した。
「うまく行ったわ。 キャシーは順を追って話せば必ずわかってくれる人なのよ」
「君が魔法使いなんだよ」
そう呟くと、ロジャーは立ち上がって、カタカタと耳障りな音をさせている窓をきちんと閉め直した。
「風が強くなってきたな。 冬になる前にこの辺を修理させたほうがいいか」
「その修理のことなんだけど」
トリシーは気遣わしげな表情になった。
「やっぱりキャシーは相当財産をなくしたんじゃないかしら。 門は痛んでるし、壁もとっくに塗り直す時期が過ぎてるし。 外回りだけじゃなく家の中も古びていたわ。 大切にしてたドラクロワの絵も消えていたのよ」
「売って金に替えたってわけか」
「たぶん」
ロジャーは実際家だった。 わずかに眉をひそめただけで、あっさりと言った。
「うまく取引できて好都合だったじゃないか」
「その言い方はかわいそうよ」
「事実だろ?」
「まあ、そうだけど」
「そのうちあのガキどもが大きくなって家を支えるさ。 悪知恵よりまともな知恵を持ってればだが」
「そうね。 あれだけたくましければ」
ほっと息をついて、ロジャーは話題を切り替えた。
「これで難問解決だ。 次へ行こう。 年末休暇中にフィリスをデビューさせて、それから一家そろって地中海へ出かけよう」
「いいわねえ。 アドリア海は水の色が違うんですってね。 透き通ったエメラルド色なんですって?」
「それに泳げるぞ」
トリシーは面白がった。
「水着、見たことがあるわ。 横縞の下着みたいなの。 あれを着たらシマウマみたいに見えるでしょうね」
「最近はいろんな色があるそうだ。 向こうに行ったらじっくり選ぶといい」
まだまだ冒険心が衰えていないトリシーは、笑ってうなずいた。
◇+-+-+-+-+-+-+◇
翌日、フィリスは舎監の先生から手紙を受け取った。 トリシー・コートニーと差出人の署名がある封筒を無言で見つめた後、フィリスは図書室に行って、気の進まない手つきで封を切った。
『かわいいフィリス、元気にしてますか?
こっちはすべて順調です。 あなたの選んだドレスも生地が決まり、デザイン画がうちへ届けられました。 息を呑むほど素敵ですよ。 今週末にロンドンへ出るので、そのとき仮縫いをすませましょう。 それからピカデリーに繰り出して遊ぶのはどう?
楽しみにしていてね。 じゃ、土曜日に』
手紙を畳んだときのフィリスの表情は、楽しさとは程遠かった。 硬い視線を窓の外に走らせて、フィリスはしばらく思いに沈んでいた。
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