心の連鎖 41
アマンダからホテルに連絡が来たのは、日曜日の朝七時をわずかに過ぎたころだった。
制服を着たメッセンジャーボーイが遠慮がちにドアをノックしたとき、一睡もできずに丸テーブルに寄りかかって額に手を置いていたトリシーは、ベッドに座りこんでいたロジャーよりわずかに早く戸口に駈けつけた。
ボーイがチップをもらい、挨拶して去った後、トリシーは珍しく引きちぎるようにしてラベンダーブルーの封筒を開け、明るい窓辺に急いだ。 すぐにロジャーが大股でやってきて、肩越しに覗いた。
『コートニー様へ
フィリスは無事です。 シェイミントンのグレイベア・インという旅館に泊まっているそうです。
アマンダ・レイシー拝』
「急ごう」
さっきまでの虚ろで疲れた様子が嘘のように、ロジャーはてきぱきと動き、内線でフロントを呼び出して辻馬車を呼ばせた。 トリシーはトリシーで素早く探偵事務所に伝言を書き、受付に預けて、後で探偵が合流できるようにした。 なにしろ日曜日なのでいろいろ連絡が取りにくいのだ。 それにしても、二人ははっきりと顔色に出るほと心からほっとしていた。
前の晩が徹夜に近い状態だったので、スコットが出かけた後、フィリスは少し仮眠を取った。
目覚めたのは九時ごろだった。 もう日は高く上がり、十一月とは思えないほどなごやかなオレンジ色の光が静かな部屋を満たしていた。
これが春なら花摘みに出かけるんだけど、とフィリスは靴を履きながら思った。 そしてテーブルにふんわりと活けて、恋人の帰りを待つのだ。 これまではひたすら逃げ続けるだけだった。 せめて丸一日、いや半日でもいい、スコットとゆったり過ごしたかった。
小さなチェックのソファーが壁際にひっそりと置かれている。 上にかかった花模様のキルトを見つめながら、フィリスは空想した。 二人っきりであそこに寄り添って座って、肩を抱き合い、胸に顔を埋めて……
カツッカツッという精力的な靴音が階段を上り、廊下を近づいてきた。 本能か、それともやはり聞き覚えがあったのか、フィリスの頭にその靴音の主の名前が、あっという間にひらめいた。
最初に思ったのは、窓から飛び出して逃げようということだった。 しかし猪型のロジャーと違い、自分も若い頃はじゃじゃ馬でならしたトリシーが、その逃げ場所を見逃すはずはなかった。 フィリスがバッグを掴み、もどかしく窓を引き開けた、その目の前に、メリノのコートをひるがえしてトリシーが立った。
眼が合うと、トリシーは穏やかに、ほとんど同情の口調で話しかけた。
「もう終わったわ。 家へ帰りましょう」
喉を詰まらせて、フィリスは後ずさりした。 初めて義理の姉が敵に見えた。
「いや」
相当な勢いで廊下に通じる扉が開いた。 さっと入ってきたロジャーは、体を横に向けてトリシーと彼の両方を油断なく警戒しているフィリスに、鋭い声をかけた。
「おまえは退学させる。 このままガーランド屋敷へ帰るんだ!」
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