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心の連鎖 44


 かっとなって口を開きかけたが、ロジャーは自制した。
「それで?」
 こらえた声で促されて、アマンダは居住まいを正した。
「スコットさんは子供の頃に親を失って荒れていた時期があって、そのときに悪い友達ができてしまったんです。
 十代の半ばに、その連中の喧嘩に巻き込まれて、レイシャムという男の腕を折ってしまったらしいんです。 それがうまく直らなくて、レイシャムは仕事に就けなくなりました。 スコットさんが後悔しているのをいいことに、レイシャムはずっと小遣いをせびっていたそうです。 そして、とうとう人殺しにまでなって、借りがあるスコットさんを脅してこの計画に引き入れたんです」
 人殺し……ロジャーの顔が深刻になった。
「スコットさんは用心して、一度もレイシャムにフィリスの顔を見せませんでした。 そして身代わりを立てて彼女を田舎に隠し、庇い通したんです」
 アマンダもスコット同様必死になって、身を乗り出すようにしてロジャーに訴えた。
「人を殺してしまったレイシャムはとても危険でした。 逃亡資金が必要で、取れなければもう一人殺すぐらい平気だったでしょう。
 お願いです、コートニーさん、スコットさんを訴えないでください! 彼は分け前なんか一ペニーも受け取っていません。 初めから悪党たちはスコットさんに分ける気なんかなくて、罪だけ押し付けて逃げてしまったそうです。 そうなると、スコットさんにはわかっていたんです。
 でもフィリスを守るために、彼は留まりました。 ぎりぎりまで! ですからどうか、スコットさんを追わせないで!」
「ということは、もうスコット・ロームは海の上というわけなんだね?」
 不気味なほど静かに、ロジャーは尋ねた。 アマンダは、唇を噛んでうなずいた。
 ゆっくりと背をそらすと、ロジャーは冷たい声で告げた。
「フィリスが戻ってきた以上、ことを荒立てるつもりはない。 ただし、一身上の都合ということで学校は退学させる。 家に連れて帰り、アドリア海に同行させるつもりです」
 はっとして、アマンダは口ごもった。
「ダニエルズを止めるんですか?」
「あそこに入れたから男なんかと知り合う羽目になった」
 厳しく言い返し、ロジャーは席を立った。
「事情はわかりました。 でも納得はいきません。 わたしから見て、あなたはいい友人とはとても思えない。
 もうフィリスとは付き合わないでください。 手紙も禁じます。 それでは」
 運ばれた紅茶に手もつけず、大股で部屋から出ていくロジャーを、アマンダは複雑な表情で見送った。


 探偵の調べで、スコットはカルカッタ行きの客船に乗ったことが明らかになった。
「そう、インドへ行ったの」
「絶対にフィリスに話すんじゃないぞ」
 ロジャーは急いでトリシーに釘をさした。
「話したほうがいいと思うけど。 遠く離れた国に行ってしまったとわかれば、かえって諦めがつくんじゃない?」
「よそへ行ったとだけ話そう。 もう絶対会えないところへ去ってしまったと」
 たとえ舞い戻ってきても二度とそばへは近寄らせない、とロジャーは固く決意していた。 


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