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心の連鎖 46


 ほぼ半年ぶりにイギリスの土を踏んだ日、フィリスにはいろいろと不思議な事が起こった。
 まず初めは、サザンプトンの桟橋でトレーニング仲間のエズラ・ハーバード夫妻と出会った。 夫妻は赤十字の関係者でもあり、健康な心は健康な体に宿るというのがモットーで、各国を回って体育指導をしていた。
「まあ、フィリス! おかえりなさい」
 派手な声を上げてローズ夫人が呼んだので、初めて気付いたフィリスはにこにこしながら近づいていった。
「これからまた外国へ?」
「いいえ、帰ってきたところ。 貴方達と同じね」
 ひょろっとしているが樫の木のように頑丈なエズラが口を添えた。
「イタリアまで行ったんですよ。 あちらは北部はいいが、南はまだ貧しくて、教育も遅れていてね」
「でも海はきれい。 景色もすばらしくて。 あ、それは貴方のほうがご存じね。 地中海に別荘があるんですもの」
 それから夫人は無邪気に付け加えた。
「レイドナー伯爵夫人も近々別荘を購入されるそうよ。 お宅のことをお話したら、ぜひアドバイスを受けたいって。 今トーキーにいらしてて、今日たまたまこちらへお友達を迎えに来てるの。 ちょうどいいわ。 ご一緒しない?」
 社交嫌いなフィリスはたじろいだ。
「そういう話なら義母のほうが……」
 ローズ夫人は平気な顔で、フィリスの肘に手をすべりこませた。
「あら、まだお若い方なのよ。 あなたのほうが気が合うと思うわ」
 引っ張られていきながら、フィリスは振り向いて家族の助けを探した。 だが、こういうときに限って、一同はだいぶ離れたところで一かたまりになって、次々と入ってくる船を見物していた。
 港の喫茶室に押し込まれたフィリスは、奥で優雅にティーカップをかき混ぜている若い女性を見て、足を止めた。
 女性はあわてずに顔を上げて、微笑した。
「久しぶりね、フィル」

 それは、アマンダだった。 ダニエルズ工芸高等学校一の秀才で、フィリスの駆け落ちを手助けした、あの貴族令嬢だった。
 驚きで口がきけないフィリスに、アマンダはさっぱりした口調で呼びかけた。
「こっちへ来て、席にかけて。 話したいことが山ほど詰まってるの」



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